私たちは皆、歳を重ねるにつれて身体だけでなく判断能力も衰える可能性があります。
もし、ご自身やご家族が判断能力が無くなってしまったら(認知症など)何が起こるでしょうか?
<銀行口座が凍結され、預貯金が引き出せなくなる>
<悪質な詐欺や訪問販売の被害にあいやすくなる>
<不動産の管理・処分ができない>
<介護サービスの契約が結べない>
上記のような様々な困りごとが発生する可能性があります。
このような事態に備え、ご本人やご家族を守るための安心を提供する制度が「成年後見制度」「民事信託」です。どちらも、それぞれ目的や特徴が大きく異なります。
今回は、これらの制度の主な違いを分かりやすく解説し、あなたにとって最適な選択肢を見つけるヒントを提供します。
成年後見制度とは?
ご自身の判断能力が低下してしまった場合に、ご本人を法的に保護・支援するための制度が「成年後見制度」です。この制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
(1) 法定後見制度:すでに判断能力が低下した方を保護する制度
- 申し立て : 本人、配偶者、四親等内の親族、又は市区町村長などが家庭裁判所に申し立てを行う
- 後見人の選任 : 家庭裁判所が本人の判断能力の程度や状況、財産など考慮の上、成年後見人を選ぶ
- 後見人の役割 : 本人に代わり財産管理、身上監護(健康、医療、介護など日常生活における支援)などを行う
- 家庭裁判所の監督 : 成年後見人は家庭裁判所の監督を受ける。定期的に財産の収支状況などを家庭裁判所に報告する義務があり、財産が不適切に使われることを防ぎます。
- ご本人の意思よりも「保護」が優先されることがある
(2) 任意後見制度:判断能力が十分なうちに、将来のために自分で備える制度
- 契約 : 本人(委任者)と、将来後見人になってほしい人(後見人受任者)との間で契約する
- 任意後見人の選任 : ご本人が信頼できる人を自由に選べる。親族や友人、弁護士などの専門家も可
- 契約内容の自由度 : 将来、任意後見人にどのような事務を任せるか具体的に定める
- 契約の効力発生時期 : 契約は元気なうちに公正証書で作成。本人(委任者)の判断能力が不十分となったときに家庭裁判所への請求により任意後見監督人が選任され、開始となる
民事信託とは?
「民事信託」は、「家族信託」と呼ばれることも多く、ご自身の財産を信頼できる人(受託者)に託し、管理・運用してもらう制度です。
- ①財産を託す人、②財産を管理・運用する人、③財産から利益を受け取る人、が主な登場人物
- 財産の柔軟な管理
▶例えば「自分が亡くなった後、配偶者に引き継ぎ、配偶者が亡くなったら最終的には〇〇に引き継いでほしい」といった、数世代にわたる財産の承継先まで指定できる - 契約であるため、受託者に財産を託す手間や費用がかかる
- 法的な知識が必要となるため、専門家(行政書士など)に相談して契約書を作成することが必須
- 身上監護はできないため、必要に応じて任意後見制度との併用が必要
どの制度を選べばいいの?
- 「既に親の認知症が進んでしまって、財産管理が心配・・・」
「判断能力が低下してしまった本人の財産を守りたい」といった場合
→法定後見制度の利用となります。 - 「将来、もしものことがあってもこの人に財産管理や生活の世話をお願いしたい」というようにご自身の希望を明確にしておきたい場合
→任意後見もしくは民事信託、もしくはこれらの併用が選択肢となります。 - 「認知症になっても家族が困らないように財産管理の方法を明確にしておきたい」
「障がいのある子のために、財産を残しておきたい」というように、ご自身の財産をより詳細に、そして長期的に管理・承継したい場合
→民事信託が非常に有効な選択肢となります。
法定後見制度 | 任意後見制度 | 民事信託 | |
利用開始時期 | 判断能力がすでに低下している | 元気なうち (将来に備える) | 元気なうち (将来に備える) |
主な目的 | 判断能力が低下した人の保護 | 希望実現 | 判断能力低下後の財産管理・承継の柔軟な実現 |
監督者 | 家庭裁判所 | 任意後見監督人 (家庭裁判所が選任) | 原則なし (信託監督人などを置くことも可能) |
選ぶ人 /決定者 | 家庭裁判所 | 本人が選ぶ | 本人が選ぶ |
財産の使途 | 本人の生活・医療・介護のため | 本人の生活・医療・介護のため (契約内容による) | 契約内容に沿って受益者のため |
特徴 | 状況に合わせた保護 | 自分の意思を尊重した支援 | 財産をより柔軟に管理・承継 |
人生100年時代と言われる現代において、ご自身の老後やもしもの時に備えることは、ご本人だけでなく、ご家族の安心にも繋がります。
当事務所では、お客様一人ひとりの状況やご希望を伺い、最適な制度をご提案させていただきます。
「うちの場合はどうすればいいの?」「もっと詳しく知りたい」といった疑問がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。